*世界のベンチマーク(自伝)グアテマラ編 (六)ビバ!ラティーノ!

ラテン文化というのは、明るくてフレンドリー、直情的といったイメージがあると思うが、実際住んでみるとその通りで、街中には常にサルサやメレンゲといった独特のラテン音楽が流れており、人々は思うままに踊ったり、談笑したりしている。ポケットには小銭しか入ってなくてもあまり節約もしないしお酒もよく飲む。

持ち掛けられる相談も浮気相手が妊娠したとか明日は娘の誕生日だがあり金全部使ってしまったので貸してほしいとか人間くさい愚かさに起因している事がほとんどで情けないなと感じる事はあるが、それを素直に口にできる事に羨ましさも感じる。

一度、カルロスに招待を受けてクリスマスの日に彼の家に泊まった事があるのだが、なんと彼の愛人を連れていきたいという(彼は17歳で結婚。22で子供が2人いて愛人もいる)。そこでベロニカという彼の愛人と僕は恋人同士という設定でカルロス家におじゃまする事になった。生徒の家で生徒のご両親の前で生徒の愛人と恋人のフリをしていちゃつく。なんだか申し訳なくなってくる。

安請け合いしてしまった自分を後悔しつつみんなで晩餐を囲んでいると、呼び鈴が鳴りカルロスの兄が家を訪れた。大柄で気さくな人物だが、顔をよく見てみると鼻が左に大きく曲がっている。どうしたのか聞いてみると、昔、家のテレビを盗み出して売ろうとしているところをカルロスの父親に見つかり、殴られたらしい。ちなみにカルロスの父親はルチャリブレと呼ばれる空中戦が特徴的なプロレスのヒールをやっていてアラーニャ(蜘蛛)というリング名で活動している。修行に来たクシダをいう日本のレスラーの事も知っているという。レスリングでグアテマラ代表になった事もあり、普段はリング上とは違い非常に礼儀正しく紳士的な人柄だ。カルロスが苛酷な環境下で育っても道を外さなかったのは父親による影響が大きいだろう。

その日はカルロス家のソファで就寝する事になった。家の外では夜中でも音楽や笑い声で騒がしいが、その中にはパンパンと爆竹のような音も聞こえる。酔っぱらった人々が拳銃を空中に向かって撃ち放っている。時々、どこかの家の壁やレンガに当たっているのかガシャンという何かが壊れる音もしている。カルロスの家はトタンと板切れで出来ているので壁際のソファで寝ていた僕は気が気でならなくて結局一睡もできなかった。

ラテンの国々の人たちが他の文化圏と大きく違うのは、一度仲間になると最後まで面倒を見てくれるが、一方で敵対する勢力には容赦がないという点だ。グアテマラの後も色んな途上国で仕事したが、一番ウソが少ない。身内を疑うような事がらは皆無だった。これは自分の体験を元に作られたラテン人観だが、以前TVで放映していたメキシコ系ギャング「チカーノ」のドキュメタリー番組でも同様の描写がされていたのであながち間違いではないと思う。

生徒の大半が住んでいるソナ5は昼間でも強盗殺人が多発する最危険エリアだが、僕が生徒の家に呼ばれて行っても全く危険は起きない。生徒の身内である僕はその地域のギャングにとっても身内になるからだ。本来なら入り口で通行料を払い、地元の人間のエスコートがなければたちまち身ぐるみ剥がされてしまうが、生徒の自立を支援する僕はスラムの自立を支援する存在として歓待を受ける。

面白いのが、このソナ5出身の警察官や弁護士も稀にいるのだが、彼らは自分たちの地区の中では幼馴染のままなのだ。時には一緒に食卓を囲む。そして家を出てそれぞれの仕事に戻る時、別の顔を持つ。

生まれもった貧富の差と征服者・被征服者の血縁によって決定付けられている未来。そんな不公平への怒りはスラム出身の人間全ての心にともっている。