続・インド編 (六) リスク処理班

さてさて、どうするか。僕が会社のオーナーなら何か問題があれば部下に報告するように言う。これ建前ね。言うわけねーじゃん。これまで何度も上司や会社の不正やミスの尻ぬぐいをしてきたし、逆にそれを使って追い込んだ事もある。表向き性善説&減点方式のニッポン文化を変えない限りここは改善しないわな。

 既に生産開始してる分だけでも僕のポケットマネーで解決しようにも500万円。ちとキツイので泣きを入れて減額してもらうか、開き直るか。最悪のケースを想定しながら、ハルディックとこの詐欺師からどうやって回収を行うか協議した。

 ハルディックの父ちゃんは裁判所に務める事務官で助けを得られるかも知れないと連絡を取ってもらっていた。過去にハルディックが暴行で収監された時も一切手助けしなかったというなかなか気骨のある人物で、こーゆうピンチの時は信義という普段は鳥のフンほどの意味もないと思われている価値観に救われる。

 そして偽造文書を作成された銀行とも提携して、犯人を追い詰めていく。といっても実はこれはあまり効果がない。というのも、物流の背景は以下の形になる。
インドからレンズを発注➡日本で生産&シンガポールへ発送➡シンガポールからインドに持ち込む。なぜこのようなややこしい手順を踏むのか?というのも前項で説明したようにスーラットの人々はとにかく税金を支払いたくない。ダイヤモンドの市場は非常に不安定だからだ。そして保護貿易的な制度を運用するインドはWTO(世界貿易機関)加盟国にも関わらず、様々な名称の税金を設けて実質10~20%もの関税を取る。「とにかく余計なお金払いたくな~い」という訳でハンドキャリーエージェントという者が存在して、一旦、シンガポールに入った高関税対象の商品を手荷物としてインドに持ち込むという訳だ。あんまり追い込むと商品をもって雲隠れしてしまうし、エージェントの代わりはいくらでもいる。

 てな訳で、相手を破滅させる準備だけをしても問題の解決にはならない。なのでこんな時は原点に還る。「そもそもなんで詐欺したんだろう?」

 好き好んで悪事に走る者は少ない、そんな奴がいればよっぽどのバカか破滅主義者だろう。彼らが悪事に走る原因は主に2つ。こちらが格下だと判断した場合とそうせざるを得ない事情がある時。

そもそもスーラットの市場は別の小売業者が牛耳っていた。我々はそのシェアを覆そうと現地パートナーと大量の在庫を用意して乗り込んだ訳だ。少なくとも我々が持ち込んだ商品とその価格には「勝ち目」が存在したから協定が成り立った。

 「敵の敵は味方」・・・だよね。僕たちはスーラット市場の支配者に残りの在庫をより好条件で引き渡す申し出をした。こちらも最初の想定よりは損失を被るが損切りができるし、現地パートナーがリスクを冒してまで行った反撃の狼煙は全くの意味をなさない結果になる。

法の効力が及びにくい相手との交渉なら彼らのフィールドで影響が出るアプローチをした方が良い。要はスーラットでのカンバンとメンツを潰せば今後も浮上が難しくなるからやっと言う事を聞いてくれたという訳だ。

 そんなこんなで再びオトモダチに返り咲いた現地パートナーからきっちりお金を回収して契約した分の商品を買い取ってもらい、スーラットとの商売も終わりにした。その後もちょくちょくスポットではやり取りしたが王様モードでの対応に終始した。

 そうやって現地とバイヤーとのダンスの仕方を覚えた僕たちは無事、日本側からの代理店契約も勝ち取り、徐々に口コミでその名がマーケットに知られる事となった。

 活動を開始して7~8カ月が経とうとする頃、ある大きな案件が舞い降りてきた。「国境監視線」に僕らのカメラとレンズを採用したいとの話。

オッヒョー、俺、武器商人になっちゃうの⁈