続・インド編 (五) 華麗なる詐欺

レンズの仕事を拡大するに当たって、当面必要になってくるのは、生産を行っている日本サイドの信頼を得てサポートしたもらう体制を整える事。

 既にインドには代理店のようなものは存在したが、販売意欲がなく売り上げも低いままだったので、自分たちの支店を代理店に切り変えてもらう必要があった。

 同じグループ会社とはいえ、販売実績がない我々では説得力がなかった。こういう場合はメリットをくどくど説明するより、先にメリットを与えてしまってかた交渉した方が早い。という訳で、日本の高性能レンズが使用されていて多少なりとも販売記録がある場所に目をつける事にした。そこで浮上してきたのが、僕がいたグジャラート州内にあるスーラットという町。ここは世界のダイアモンド加工の一大マーケットで、切削したダイアモンドの形状を検査するのに日本のカメラやレンズが使用されていた。

 ところが、このスーラットというのはとんでもない場所で税金を納めずに事業を行う、いわゆるブラックマネーと呼ばれる資金の発生源としても有名な地域であった。というのも、貴金属などの商材は投機の対象にもなり、非常に景気の波にさらされやすい。それ故に、販売が好調な時は一気に職人を集める為に、ベンツを買い与えたりする一方で景気が収束すると全く売れなくなるので一斉に解雇を行うなど、公式の手順で運営するとそのスピード感についていけなくなる側面もある。ダイアモンドに関しては採掘から販売に至るまでかなり政治的な側面もあるのでレオナルド・ディカプリオ主演の「ブラッド・ダイアモンド」という映画を見て頂けるとわかりやすいと思う。

 とにもかくにも、安易に商売をするには危険な場所だという認識はあったので、慎重にパートナーを選び、日本に研修の為に来日した事もあるインドの会社を介して、販売を試みた。話は上手く進み、1年分のオーダーの確約を得た。彼らとしても、一つの街というせまい市場なのでいい商品があると知れ渡れば簡単に寡占状態が発生すると目論んでの事だった。この1年分のオーダーを材料に日本の本社に代理店契約の申込みを行う。

 日本側からすれば得体の知れないインドの販売先に対して僕らが介在する事でリスクヘッジになるし、僕らは販売力以上にリスク査定の機能を主張する事で双方が上手くいく。販売先に契約の不履行があるといけないので、お金は全て先払いで代金回収についても準備をしていた。
レンズビジネスは大きな実績を上げた事で、順調な走りだしを見せ、早速初期の生産に入っていた。ところがメールで銀行の振込書の提示があったにも関わらず、日本には一向に着金がなされない。

 2週間ほどが経ち、さすがに不信に思い銀行に問い合わせてみると、そのような客はいないとの事。振込書偽造・・・・チーン。

 日本では既に年間オーダーを想定して生産に入っている。オーダーから完成までは3ヶ月を要し、途中のキャンセルは効かない。今さら騙されましたなんて言えない。

 イェ~イ、四面楚歌。甘くないよねぇ~(笑)。