世界のベンチマーク(自伝)インド編(五)世界は繋がっている

さて、バブーはいい奴だが、貨物運搬用の書類など作成した事はない。日本であればその意味や作成方法を丁寧に教えるのだろうが、現場ではさっそく出荷が始まっており、見よう見まねでこちらが言った通り作ってもらうしかない。こうやってモノゴトを覚えるとイレギュラーなケースへの対応がおろそかになるが、そもそもインドでなくとも、アメリカ人もヨーロッパの人も流れ作業の中でのオペレーションはすこぶるテキトーだ。結果オーライの世界。ちゃんとしないといけないのは日本の中だけで、この美学に固執して正義をふりかざす姿は宗教的ですらある。その代わり、契約社会に生きる彼らは自分が関わる契約書の内容には一言一句こだわり、忖度など一切なく激論を交わす。多民族社会で自分を守るのは証拠と客観的な記録であり、感情を優先して形式のみの発注書を取り交わす日本の方が原始的といえなくもない。

書類は難なく準備できたが、ここで大きな問題が起きた。航空系の物流会社というのはいわゆる、航空会社にとっての集荷業者で、その集めた量に応じてメリットが大きくなる。つまり個々のお客さんからは重量やサイズ毎に運送費を徴収するが、航空会社に対してはお客さんの荷物を合わせて一つの混載貨物として申請を行う。航空会社からの運賃は重量が増えるにつれて反比例的に安くなるので、この運賃の差益が物流会社の収益になる。航空会社に提出するMBL(マスタービーエル)という運送状には、貨物名が混載貨物とだけの表記になり、貨物の詳細は不明瞭になるので、慣例的に物流会社は個々の貨物明細を示したHBL(ハウスビーエル)という運送状を発行する。

今回の発送先はアメリカ。このHBLの取り扱いにおいて不都合が生じた。アルカイダの9.11テロ事件を受けてアメリカでは通関申請における審査を厳格化しており、HBLを発行する業者に対して電子登録を義務付けていた。混載貨物の名の下に武器や爆発物など様々な持ち込みを行うのを防ぐ為である。ところが、インドのパートナーは物流貨物取扱いの経験はゼロで当然HBLも発行した事がない。出荷時点では電子登録を行う時間もない状況で、便宜上、登録済みの同業他社のHBLを借りる必要が出てきた。

ここで日本本社からの物言いが入る。「他社の名で貨物を運送するなどけしからん」とのお達し。一方、インドの配属先からは出張予定日数が過ぎて費用がかさんでいるのでニューデリーに帰って来いとの命令。上同士で話してくれよと言いたいところだが、一応、出向している身分としては直属のインド会社に従うしかない。

案の定、貨物は未登録のまま発送され、現地空港にて差し止められ多額の罰金が生じた。事態の経緯を俯瞰して捉えるとこれは文化の問題だと思う。昨今のコロナウィルスしかり、福島原発しかり、日本は具体案よりメンツや〇〇すべきを重視する。そしてまずい結果になった場合は原因追及という名目の下に犯人捜しに労力を費やすか、みんなそうだったんだしょうがなかったんだという結論ありきの意見誘導が行われる。

個別の問題でしっかり外国のパートナーと論議を交わせばいいものを、ただ言いにくいという理由だけで僕にしわ寄せが来るのは明白だった。まぁいいんだけどね。金もらってるし。ただ一つ言いたい。「喧嘩はスジでするもんだろうよ。相手選んでんじゃねー」